次の日。朝になって寝室の窓を開けて空を眺めてみれば、昨夜とは打って変わって、黒ずんだ雲が西から流れ込んできている光景が見えた。湿度を含んだ風が肌を撫でる。生ぬるい風に少しばかりの嫌悪感を感じた。
 おそらく、これは一雨降るだろう。
 
(……天気予報がないのが、こういう時は不便だな)
 
 今日は洗濯も何もせずに、家の中でゴロゴロすることが俺の中で、この瞬間に決定した。
 起き抜けに伸びをしてから首を鳴らす。
 昨日はあまり寝ていなかったので、体が少し疲れているような気がした。軽くストレッチをすれば気持ちがいい。
 誰もいない部屋の中で一人、柔軟体操を続けることにする。
 こういう時、家が広いことはいいことだと思う。
 この世界に来るまで借りていた賃貸アパートでは、狭い部屋の中に物を置きすぎて、目一杯体を伸ばすことなんてできなかった。
 だからこの空間の広さに関してはこの世界のことも気に入っている。
 まあ、その代わり不便と思うことも多いのだけれど。
 そんなことを考えながら十分に体をほぐして満足感を得た俺は、風呂上りのような良い気分でまた眠りに付くためにベッドに横になった。もともと眠りが足りていなかったこともあって、目をつぶればすぐに眠れる。
 さて、今日は昼まで寝ていようか。
 一分の隙も無い駄目人間思考で、俺はそのまま思考を放棄しようとして――。
 そこで、バタンッと階下から物音が聞こえた。
 これはまだ新しい玄関の扉が閉じられた音と見て間違いないだろう。
 はてさて、こんな日に家主の断りもなく家の中に入ってくる侵入者は誰だろうか?
 半分眠った頭で考えても、これが物盗りでもなければ、該当しそうな人間は二、三人しかいなかった。
 考えるうちに、今度は、階段を上がってくる規則的な足音が聞こえてきた。
 その時点で家の中に入ってきた人物が誰であるのかが判明する。
 こんな軽い足音の持ち主で、俺の家の中に気軽に入ってくることができる相手は一人しかいない。
 
「……おはようございます。それでは今日は掃除をしましょう」
 
 そして、こんな突然の提案をするのも、一人しかいない。
 俺の家の合鍵を持ち、時々こうして顔を見せるラクシャだけだ。
 
「ああ、おはよう。ただ今日は天気も悪いし、掃除なんてしなくていいんじゃないか? こんな日は何もしないに限るよ」
「いえ今日だからいいのです。マツバラさんは、晴れた日に掃除をしようと言っても、……外に逃げてしまいますから」
 
 ベッドから上半身だけ起こした俺に見向きもせずに、そう言うとラクシャは寝室から出て行った。
 そして他の部屋のドアを開閉する音が聞こえてきた後に、掃除道具を持って再び部屋の中に姿を現す。
 
「今日は普段使わない階の埃だけでも、取ってしまいましょう」
「えー、二階分で七部屋はあるよ、それ。やめとこうよ。面倒だって」
「……それなら最初から、こんな無駄に広い家を買わなければ良かったんです。私の家に住んでいた頃は、一部屋掃除するだけで良かったんですから」
 
 そう言うとラクシャは俺に掃除道具を押し付けた。
 感情があまり読めないラクシャの表情で、そうされてしまえば俺も受け取らざるをえなくなる。
 朝起きてすぐに掃除用具を手に取らなければならない雨の日。……なかなかシュールだ。
 
「なあラクシャ」
「……何ですか?」
「まだ何も食べてないから、先に少しばかり食べてきていいかな?」
 
 俺がそうお伺いを立てるとラクシャは無表情なままに眉根を寄せた。少し、怖い。
 が、何事かを考え終えたのかふるふると首を横に振った。
 
「……そうでした。マツバラさんが朝食を取っているはずがありませんでした。例えもう、町の人たちは働き始めた時間帯であったとしても」
 
 その言葉には俺を責めるような感情はない。
 本心から自分の不明を恥じているように聞こえたために、逆に強く胸に刺さる。
 街一番の駄目なネガティブ人間とゲインに馬鹿にされる俺であっても、もうちょっと規則正しい生活を送るべきかなと考えさせられる。というか、……こういう小さい子に素で駄目だと思われるのはきついものがあるな。
 
「いや、うん。色々とごめん」
「……いえ、それよりも早く着替えてから下りてきてください。その間に私が何か用意しておきますから」
「あ、もしかして作ってくれるの? だとしたら嬉しいな」
「残念ですが、それは無理です。私はまだお母さんが横にいて、なおかつ家の台所でなければ料理をできませんから。――どうせマツバラさんの家には保存の利く食べ物が山ほど貯蔵されているでしょうから、それを出しておくというだけです」
「そっか。そりゃ残念だ」
 
 ラクシャの背中が部屋の外へと消えていく光景を眺めながら、呟く。
 まあ、とは言ってもここで料理までさせたら俺も完璧な駄目人間になってしまうので良かったのかもしれないが。
 そんなことをダラダラと考えながらベッドから降りて着替えを済ませる。
 寝巻きを脱ぐ際に、跳ねた寝癖が気になったが、それはとりあえず無視する。
 俺はすっきりしない頭のまま、階段を下りていった。
 居間へと顔を出す。
 すでにテーブルの上には乾燥させたカムリとチーズ、それに保冷庫の中に入れてあった野菜が切られて乗せてあった。
 そして台所からは肉を焼く匂いが漂ってきている。
 何だかんだ言って、ラクシャは色々とやってくれているらしい。
 どことなくその背中が妹に似ているような気がして、不意に心が和んだ。
 あいつも色々あったけど、落ち込みやすい兄の面倒を、本当に良く見てくれていた。
 
「悪いね。本当に」
「いえ、それよりも早く食べてしまってください。でないと終わりません」
 
 振り返らずに、ラクシャは肉に調味料を振りかけているようだった。
 こんなことまで出来るようになるとは、少し前のラクシャの姿からは想像もできなかった。なぜだか少しおかしい。
 
「……どうしたんですか? 笑いながら食べて」
 
 笑っていると、味付けした肉の炒め物を持ってきてくれたラクシャが不思議そうに首をかしげる。
 俺は慌てて首を横に振った。話を変える。
 
「いやごめん、何でもない。――それよりもさ、どうして急に掃除なんて言い出したのか聞いてもいい?」
「それは、お母さんが言っていたんです」
「言っていたって、何を?」
「きっと、……こんな日にはマツバラさんが怠けているから、せめて家の掃除ぐらいさせてきなさいと」
 
 ラクシャはそう言った後に、小さな声で 「……そしてマツバラさんは予想通りだったわけですが」と続けた。
 朝食を取りながらその台詞を聞いていた俺は、我が身の不明を恥じ入るばかりである。
 特にラクシャの母親であるササリさんに、行動を読まれてしまったことは駄目な気がする。
 
「……そんなに行動読みやすいかな。俺」
「恐らくは」
「そっか。やっぱり我がことながらここ最近、自堕落になってきていると思っていたけど、そうだったか」
「……とにかくゲインさん達は雨の中、例の平原まで調査に出向いているのですから、マツバラさんも家の掃除ぐらいはやりましょう」
 
 淡々とした言葉で、しかし、だべる余裕を与えぬとばかりに、空になった皿をラクシャは取り上げる。
 そうすることで、無言のプレッシャーを放っているのだろう。
 意図を汲んだ俺は、焦りながら最後の一欠けらを口に押し込むのみ、である。
 
「そうだな。まあ濡れ鼠になってるゲインよりましと思えば、何とか掃除もやれそうだ」
 
 今頃、我が街が誇るゲイン君は辺境騎士団の一部の索敵要員に随伴して、近日中に掃討作戦を行う対象の情報を集めに行っている。俺も暇だからついていこうと思ったのだけれど、隠密性が求められる作戦では俺はまるで使えないために、にべもなく断られてしまったのだ。
 しかし、この豪雨になりそうな天候を見てみれば、断られて正解だったらしい。
 最後の一皿も取り上げられてしまった俺は、もしゃもしゃと口の中で行儀悪く食べながら、ゲインにざまあみろと内心で呟く。
 
「……それでは始めましょう。私は二階をやりますので、マツバラさんは三階から順にお願いします」
「はーい。分かったよ」
「……いつものように手を抜かないでくださいね」
 
 適当な返事をすると、ラクシャに疑惑のまなざしを向けられてしまった。
 実に不覚でショックである。
 
 
 
 そして、それから長い長い時間が経った。
 掃除に関しては凝り性なラクシャは予想通り、俺がすっかり綺麗にした部屋に駄目だしを連発した。
 小姑のごとく棚の上に指を這わせて埃を見つけ、じぃっと無表情にこちらを見据えてくる。
 そんなことは序の口であり、馬鹿力なので力加減が難しいんだと弁明しても、俺に色々と細かい作業を強制した。
 置物の配置が悪いとか、客室のソファーの位置に機能性がまるでないとか、よくもまあ気に入らないところが次々と出てくるものだと、いっそ感心してしまう。
 俺はラクシャとは対極の、ゴミの山に埋もれていたとしても住めれば良いタイプの人間なので、あの異常な拘りは、きっと死ぬまで理解できないことだろう。というか、部屋の家具の並びにカラーリングを意識するとか意味不明すぎる。
 使いやすくて頑丈なら、それでいいだろう。
 そんなことを五十回ほど内心で考えた。
 もちろん空気が読める俺としては、口には出さなかったが。
 
「ようやく一段落つきましたね。残りはまた後日ということで」
「あのさ。俺、お金あるから、次からこういうのは家政婦か何か雇ってやるのが良いかもしれないなって思ったんだけど」
「――駄目です。きっとマツバラさんは、自分のことを誰かにやらせ始めたら限界なく落ちていくはずですから」
「……凄い言われようだな、それ」
 
 物静かに、だがきっぱりと言い切るラクシャの姿に、めまいを覚えそうになった。
 確かにカストール家に住まわせてもらっていた時は、褒められた生活はしていなかったかもしれないが。
 ……いつからラクシャはこんなに遠慮のないように成長してしまったのか。
 冷静に考えるに、ササリさん、つまりは母親の影響がここに至って徐々に出始めてきたのだろう。
 あの人の容赦の無さが、血脈として受け継がれてしまったに違いない。
 
「何てことだ」
 
 キリスト教徒でもないくせにジーザスと呟きながら、俺は胸の前で十字を切った。
 このジェスチャーの意味が分からないラクシャはきょとんとした様子でこちらを眺めている。
 
「何かのお呪いですか?」
「ああ。うん。俺の気が休まるようなお呪いなんだ」
「そうですか――」
 
 よく分かっていないくせに、理解を示してからラクシャはそのまま家へと帰るためか玄関へと歩いていった。
 茶でも飲んでいけばいいのに、などと言う隙も無い行動の早さだ。
 掃除なんかして疲れているはずにも関わらず、俺から見える華奢な背中は、なぜか満足感を感じさせた。
 疲れなど微塵も見えない。
 ラクシャはもしかしたら模様替えとか、好きなのかもしれない。
 ……というか、絶対好きなんだろうなあ。
 主にラクシャが担当した二階なんて、なぜかラクシャの好きな青系の色で統一されていたし。
 そういえば掃除が終わってからのラクシャの言葉は、いつになく活き活きとしていたようにも思える。
 長い付き合いだから、大抵のことは分かったつもりでいたけれど、まだまだ知らないことはあったということか。
 そんなことを考えながら家の外へと出ようとするラクシャを眺める。
 勝手知ったる俺の家であるので、ラクシャは一抹の迷いもなく玄関へ辿りつき、ドアを開け外へと出ようとして、――バタンと家の扉を閉めた。そしてこちらに視線を向けてくる。
 
「どうかした?」
「すごく……雨が降っています」
 
 ラクシャにしては珍しく、本心から嫌そうな声。
 
「雨? どれどれ、って結構本格的だな。これはゲイン達はきつそうだ」
 
 不思議に思って、ラクシャをどかして玄関の扉を開けてみれば轟々と激しい風が吹きつけてきた。
 外は、打ち据えるように強い雨が惜しみなく降り注いでいる。
 掃除をしている最中に雨が降り出したことには気づいたのだけど、ここまで酷くなっているとは知らなかった。
 石造りの街の道路を雨は打ち付けて、粒子の小さい水しぶきが飛び散っている。
 それが霧のように立ち込めて遠くの景色を見えにくくする。つまりはちょっとした台風並みの豪雨だった。
 これほどの雨ならば確かに、ラクシャが帰ることを躊躇うのも頷ける。
 視界が奪われるほどに激しい雨の中を帰れば、ずぶ濡れは確実だ。
 悪ければ風に飛ばされるか、飛んできた物にぶつかって怪我をするかもしれない。特にラクシャは細くて軽いだけに、風にやられて、どこかへ枯葉のように吹き飛んでいってしまいそうだ。
 
「帰るのきつそうだから、もうちょっとここにいたほうがいいんじゃないか?」
「……そうですね。お言葉に甘えることにします」
 
 これほどの雨だからだろう、ラクシャはあっさりと頷いた。
 まあ先ほど見た雲の様子や降雨量からすると、ちょっとやそっと待ったぐらいでは勢いが収まる確証なんてどこにもないが。
 耳を澄ませば、家の壁を雨粒が叩きつける音が聞こえてくる。
 子供の頃はこういった力強い風の音や雨音が好きだったものだけど、今となっては特に感慨は抱かない。
 ただ少し億劫になるだけで。
 ひとまず俺とラクシャはリビングへと戻ることにした。
 
「ごめん。こんなことになると考えてなかったから、何も無いよ」
 
 と、そこで問題が浮かび上がった。
 この家には酒飲みが顔を出すことは多いのだが、ラクシャのような子供が来ることは多くない。一度、孤児院の子供達を招いたことがあったが、とある悪戯により壊滅的な打撃を被ってしまってからは、それも余り無くなった。
 だからこんな外に出ることもできない状況で、暇を潰すことができるようなアイテムが酒ぐらいしか無いのだった。
 当然、倫理的に考えてラクシャに薦めるわけにはいかない。
 ……まったくもって駄目な家である。
 せめてこの世界ではポピュラーなカードゲームぐらいは揃えておくべきだったか。
 俺はいつもこんな風に、取り返しのできない場面になってから後悔することが多い。
 
「……いえ、気にしないでください。それよりも以前にノーマさんから本を借りていたと思うのですが、まだ持っていますか?」
「俺が借りた本といったら、この辺りの地理を書いた本? それとも魔王の伝承?」
「……それではなくて、もっと前に借りたと言っていた軍記物です」
「ああ、あれか。多分あるよ。そこの部屋の本棚に、置いてあると思う。――あれがどうかしたの?」
「……今の今まで忘れていましたが、マツバラさんが返却した後は、私が借りる約束をしていました」
 
 ラクシャの視線が痛いような気がした。
 ただの勘違いだったらいいな、なんて。
 
「そっか。うん、ごめん。今から持ってくるから、好きなだけ読みなよ。雨が上がるまでは、きっと時間がかかる」
 
 顔は笑いながら慌てて立ち上がり、本棚へと向かう。ラクシャが言った本は随分前に借りてから、何となく返すのを忘れていたものだ。現在は本棚でぱたりと寝転がっている。
 以前にノーマに会った時に、何も言われなかったから、まさか次の予約まで入っていたとは思わなかった。
 ……まあ、例えそうじゃなくても読み終わってすぐに返さない俺が非常識というだけなのだろうが。
 
「ラクシャ、これであってる?」
「……はい」
 
 俺から本を受け取ったラクシャは、題名を確認してから頷いた。
 パラリとそのままページをめくると、読書を開始する。テーブルに座ったラクシャは、本を読む間はまるで動かない。
 それからしばらく紙のこすれる音だけが響いた。
 何となく俺は手持ち無沙汰になる。
 やることがなくなって、さあどうしようかと考えた時だった。
 緩やかに続いていたページをめくる音が止まった。
 ラクシャから本から視線を外してこちらを見ている。
 
「……本は後で読むことにします」
 
 俺が暇そうにしていたから、気を使ったのだろう。ラクシャは本を閉じた。
 だが、子供にここまでさせるのは俺としても気が進まない。
 
「いや、読みなよ。俺はちょうど怠けたかったし、そこの部屋のソファーで寝てるから」
 
 それだけ言ってから立ち上がって、ソファーへと向かって横になる。
 寝返りで破壊されてしまう危険性があるために、特注で頑丈に作ったソファーは余り柔らかくなかったのだが、もう慣れた。
 目を閉じれば、すぐに眠れる。
 
「それじゃあ、帰る時には起こして」
「……はい」
 
 再び聞こえてくるようになった紙をめくる音と、激しい雨音を物ともせずに、俺はそのまま眠りについた。
 
 
 
 そしてぼんやりとした状態で、夢を見た。
 高校生の頃。母と妹が二人でコンサートを観に出かけてしまったために、家の中には父親と俺だけしかいない。
 そんな光景を、夢だと理解しながら、遠くから眺めている。
 父親は普段は料理をしないくせに、そんな時だけ気合を入れて自分が料理を作ると言い出した。
 俺は下手なものは食べたくなかったので、出前を取ろうと言ったが父は聞かない。
 嫌なら何も食べるなと言って強引に料理を開始した。
 とても食べられない味付けの料理か、はたまた黒焦げの山が出るのか。
 なかば諦めた気持ちで夕飯を待っていた俺に、父が作って見せたのは意外なことに手の込んだ海鮮類のパスタだった。
 俺と妹には昭和臭が濃いと評判だった、余り喋らない父親が、こんな垢抜けた料理を作れたことが、当時の俺にとってはかなりの衝撃だった。
 
「父さん、料理できたんだ」
 
 母親が作ったものよりも美味しい夕飯を取りながら、びっくりして俺が呟くと、父は答えた。
 
「馬鹿。何年生きてると思ってるんだ」
 
 パスタを箸で食べながら、父は珍しく呆れた様子で俺を見返した。
 だが、俺はその言葉を聞いて初めて、人にはその人だけの過去があるのだなと思ったものだった。それまではきっと、馬鹿だったから、そんな当たり前のことも気づいていなかったのだ。
 夢で見たのは、そんな昔の記憶。
 
 
 
 そして、ザアザアと雨が降る音で目が覚めた。意識が覚醒する。
 ここは異世界の俺の家だ。父も母も妹もいない。
 代わりに目の前にはラクシャの顔があった。
 
「何? もう帰るの?」
 
 俺がそう尋ねると、ラクシャは首を横に振った。
 
「……いえ、ひどくうなされていましたから、起こしました。大丈夫ですか?」
 
 心配そうな声に、はっとして手で両目を覆う。
 指先が濡れる。そして、その時点で先ほどまで視界がゆがんでいたことに気がついた。
 慌てて目をこする。
 
「ああ、うん。ごめん。変な夢を見ていたみたいだ。この年になって情けない」
 
 気恥ずかしさから、俺は立ち上がって窓へと向かった。
 何となく今は誰にも顔を見られたくない。
 窓の外では相変わらず激しい雨が街へと降り注いでいた。
 遠くの空も黒い雲に覆われていて、まだまだ止みそうに無い。しばらく豪雨は続きそうだ。
 窓が風に吹き付けられて、ガタガタと悲鳴を上げている。
 
「何か、寝る前よりも酷くなってるかもしれないな」
「……そうですね」
 
 背中越しにラクシャは答えた。
 
「……なかなか晴れてはくれないようです」



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