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 公孫賛。三国志においてはマイナーな武将である。
 劉備玄徳が好きな九峪としてはちらっと名前を聞いたことはあったが、その詳しいところはまるで覚えていなかった。
 確か最終的には袁紹に敗れて自害したんだっけ? それぐらいの認識である。
 だが、そんなうろ覚えの九峪でも胸を張って言えることがある。
 それは紛れもなく公孫賛は男性であったはずだということだ。
 断じて赤いポニーっぽい髪型をした女の子ではなかったはずなのだ。だがしかし、九峪の目の前にいる公孫賛は女性であるという事実。
(ふむ。……よく考えてみれば、九洲でも武将って女ばっかだったしな。きっと異世界でのトレンド(死語)は女性部将ってことなんだろ)
 一昔前に異世界に飛ばされたために、いまだに平気な顔をして死語を使う九峪。
 彼は顔とは違って聡明な頭脳で現実を受け入れることとした。
 だってーそうするしかねーんだもん。
「どうしたんだ、九峪。私の顔なんて眺めて」
「すいません。ぼーっとしてました姉御」
 あんまり横顔を見つめすぎていたので公に気づかれてしまった。
 これまで神の遣いをやっていたとは信じられないぐらい腰の低さで九峪は謝った。基本的に小物なので謝罪はお手の物なのだ。
「なんだよ、その姉御ってーのは」
「何となく、そんな感じがしたんで。不味かったですか?」
「いや、いいけどな。ただ軍規に煩い魏や呉だと首刎ねられてたかもしれないから、他では言うなよ」
「うす。了解です」
 またへこへこと頭を下げる九峪。ちなみに彼は公が注意してきたことを理解して、敢えて姉御と呼んでいる。
 つまりこの相手なら大丈夫だろうと判断していたわけだ。
 なんというか公孫賛からは良い人オーラがダダ漏れなのである。多少は変なことしても許してくれそうな。
 きっと恋愛でも良い人で終わってしまうタイプだなと、九峪はさりげにひどいことを考えている。
 もちろん公孫賛のことは嫌いではないのだが。
 現在、九峪は主である公孫賛に付き従って、領内の見回りへと出ている最中だった。
 公孫賛軍の主力は、内外に知られる白馬隊である。毛並み美しい白馬にまたがる騎兵がずらりとならぶ姿は壮観であった。
 まあ今はただの見回りなので、そこまで人数はいないのだが。
 ざっと数えて数十騎程度だろうか。
 それでも兵の実力は高いので、山賊や黄巾党の連中を追い払うぐらいなら問題はない。
 一度だけちょっかいをかけてくる馬鹿な連中がいたが、ほとんどの賊は蜘蛛の子を散らすように領内から逃げて行ってしまった。
 九峪もまた白馬を一騎与えられて、賊を追い払うためにがんばった。
 良い汗をかいた。きっと今夜はぐっすり眠れるだろう。
「まあ今日はこんなところかな」
「そうっすね。これ以上、遠方に行くとなると兵の数が少ないんで、心もとないと思います」
「だよなあ。……帰るか」
 馬上にて、はあと溜息を吐く公孫賛。
「どうかしたんですか? 疲れてるみたいですけど」
「いや九峪も知ってるだろう? 最近うちに流れてきたから置いている趙雲。あいつの所に帰るのが少し」
「苦手なんすか?」
「ああ、どうも私とはすげー合わねー。いつも見定められているような気がして疲れる。武将としての能力は優れてるんだろうけど」
「そうっすね。それ、少しわかります」
 二人の話題に上がるのは趙雲。
 武者修行のために色んな場所をふらふらしている変り種である。
 ぼんっきゅぼんのエロい体つきをしており、それがまた九峪を悩ませるのだった。もちろん性的な意味で。
 しかもさりげに好戦的で、九峪など時々じいっと獲物を狙う猟師の視線で見つめられることもある。
 正直、趙雲なんて三国志のメジャー武将と訓練でもやり合いたくない九峪は必死に己を殺して下っ端武将を演じていた。
 今のところは騙せているが、いつばれるものやらドキドキである。
 公孫賛と同じく、九峪もまた趙雲とは顔を合わせないようにしていた。
「確かにお前はうちの軍には珍しく、あいつに狙われそうな実力持ってるから、手合わせする口実を探されてそうだな」
「またまたー、何言ってるんすか。俺みたいな平凡な兵士を捕まえて」
「……百人単位の部下を平気な顔して統率できる男が平凡なはずないじゃないか」
「ははは、それは昔取った杵柄でして。本人の実力はからっきし」
「しかも隠してるつもりかもしれないが、お前が個人でも相当強いってこと、気づいている奴はもう気づいてるぞ。当然、趙雲もな。今は客将としての立場もあるから、仕事してるお前の邪魔をせずに喧嘩売る手段を考えてるってところだろ」
「えー。……本日の最後に嫌なお知らせが。俺なんか弱いのいたぶっても何も面白くないと思うんですけどね」
「馬鹿。そもそもお前が弱かったら、こんなに出世させてないし、領主の遠出に付き添わせてもいないに決まってるだろ」
 帰路へとつきながら二人は並んで趙雲対策を考える。
 武が人の形をとったような相手は誰だってしたくない。それに公孫賛は自分の器を知っているので、必要以上の度量を求められるのはストレスでしかない。
「ははは。そうですかそうですか。どうにか勘弁してもらえないっすかね」
「私は自分のことが手一杯で、九峪の面倒なんて見れないよ。自分でどうにかしろ。ていうか、九峪なら趙雲ぐらいどうにかできるんじゃないか? 一回、あいつへこませろよ」
「またまたー、それ言うなら姉御が領主としてかっこいい所を見せつけて、あの人を感服させてくださいってば」
「そんな力が私にあるかっての。私は地方領主が限界なんだよ」
「それ言うなら俺もですよ。あの人多分化けものですし。勝てるとしたら南にいる関羽さんとか、三国無双と音に聞こえた呂布さんとか、そのあたりですって」
「……だよなあ。私もそう思う」
 それは、でかい人物を召抱えてしまった小物ゆえの悩みである。
 二人はそのまま馬上にて背中を丸めながら、仲良く帰っていくのだった。
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