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  ――その場所には、既に飽和するほどに濃く、血と錆びた鉄の臭いが満ちていた。
 

 剣戟の響きあう音が絶えることなく鼓膜を叩く。鋭利な刃物に体を貫かれた人馬の嘶きが耳を覆う。
 地面の至る所は赤く血で染まり、敵味方問わずに骸が折り重なり積み上がっていく。
 死という概念が現出してしまったかのような戦場。
 その場所を一人の男が駆け抜けていた。通常の馬よりも一回りも二回りも大きい、まるで魔獣のような赤毛の馬に跨った男の表情はまさしく修羅。この時代では入手することもできるはずがない、鮮やかな美しい蒼い服も、右手に握り締めた鉤状の分岐のある静謐とした印象を持つ剣も、この男が喉元から叫び声を張り上げて進軍するたびに赤く血に汚れていく。
 元より凄まじかった男の形相は、その侵攻を阻む軍団の中心部へと食い込むたびに変貌していった。馬防柵を荒々しい手綱捌きで飛び越え、手始めに敵軍の槍衾を剣の一閃のみで薙ぎ払うと、二陣、三陣と連なった守りを次々に食い破っていく。
 まさに破竹の勢い。触れるだけで絶命せしめる魔王が現れたかのように、男の前に立った雑兵たちは一様に震え上がった。
 だがしかし、男は真実、まったくの孤独でもあった。男と共に突撃を敢行したはずの者達は、既に皆討ち取られていた。現状は所詮、どれだけの足掻きを見せようとも決して勝利などは望めない状況でしかない。むしろこの先には敗北と言う結果しか待っていないことは男ですらも正しく認識していることだろう。勝ち目の露ほどにも見えない戦を男は一人で戦っていた。
 だが、それでも男が握る剣を手離すことは無かった。ぎちぎちと血管が浮き出るほどに強く奥歯を噛み締めながら、雨あられと押し寄せてくる矢の一斉射をかいくぐり、その首を取らんと近寄る雑兵達を悪鬼羅刹のような形相で薙ぎ払いながら、決して撤退することはない。
 男に向かってくる兵士達はただ一人の例外もなく、憎悪のこもった深い鳶色の瞳で睨みつけられながら、その剣の一振りで瞬く間に絶命させられていく。
 鬼神。――戦場にて男を見たものは等しくそう思った。
 男の名前は九峪雅比古。
 今、滅びの最中にある耶麻台国の総大将である。







    『火魅子伝二次創作小説 / 滅びの逆行者』







「――邪魔だッ!」

 声と同時に放たれた剣先が周囲を一閃する。ただその剣の一振りで、周囲の兵士達は体が両断されていく。神懸かった鋭さを誇る剣による、まるで容赦の無い斬撃は一瞬にして多くの兵士達の首と胴体を切り離した。
 一拍遅れて血飛沫の赤い花がそこかしこに咲き乱れ、周囲を、そして九峪自身を赤く染め上げた。
 だが九峪は、かつては人が軽傷を負うことにさえも拒否感を示していたはずの男は、そんな周囲の惨劇になど見向きもしないままに駆け続けた。いや、実際には血が降りかかってきていることになど気づいてさえもいなかったのかもしれない。
 彼の体は既に敵兵の返り血と、自身の流血により所々紅く染まっていた。そして尚且つ、どくどくと止まることなく湧き出る流血は、九峪が致命傷を負っている事実を何よりも雄弁に語っていた。それは確実に死に至るほどに深い。
 しかしそれでも九峪は馬を走らせた。蒼い服を紅く染め、体中に傷を負ったまま。
 右手の剣を振るうたびに、肩口に突き刺さった矢傷から更に血が流れ出すが、止まることは無い。それよりも先に近づく敵を視線だけで殺せるほどに強く睨みつけて、その命を奪い去る。跨る巨馬が地面を蹴るたびに腹部の血の染みが広がっていくが、馬の足を遅らせることはない。それどころかむしろ、したがえる巨馬に命じて速度を更に上げていく。
 蹴散らす。薙ぎ払う。踏み越えていく。――胸の中にしまっている鈴は既に風に鳴ることはない。後は血に濡れ錆びるのみ。
 切り裂く。突き刺す。叩き潰していく。――かつてはその背中を守ったはずの仲間ももういない。既に彼女らは土の下。
 喪失への後悔と激情を原動力とした行軍はどれほどの敵兵が阻もうとも、決して止まる事は無かった。既に命の灯火が掻き消えたとしてもおかしくないだけの傷を負ってなお、九峪はしぶとく突撃を続けた。その視線はただ一点だけを見据えている。
 遥か先。敵陣の中央。円状に配置された近衛の兵士達が守りたてる狗根国旗のはためく場所から、九峪を見下ろす存在を殺すために。
 瞬間、九峪の殺意に応える様に、手に持った神剣は鋭利さを増した。ぐんっと手に力を込めて振るうだけで、密集していた敵兵が再び無残に吹き飛び絶命する。

「出て来い! さっさとその汚い顔を日に曝せ、蛇渇!」

 まるで獣が雄叫びを上げるかのような声量で、九峪は叫んだ。気圧されたのか、最精鋭の訓練を受けたはずの狗根国兵達がびくりと動きを止める。その一瞬の隙をついて更に九峪は敵兵の胴体を切り離していった。叫びを向けた敵陣の中央に座す相手からの応答は当然のように無い。
 その事実に苛立ち、九峪は意味のない、ただ己を鼓舞するだけの絶叫を上げると再び騎馬に命じて速度を上げた。周囲にはわらわらと蟻の様に敵兵たちが群がってきていたが、不用意に騎馬に近づく者は巨馬の蹄で背骨ごと踏み潰し、勇敢にも長槍を向けてきた者は容赦なく額から唐竹に割った。そうして何度目になるか分からないほどになる敵陣を突破していく。
 代償は一つ。己の命のみ。死を代価にした行軍は並の覚悟では止められるものではない。
 堅牢に密集していたはずの敵陣は九峪の侵攻により真っ二つに割られていた。狗根国兵達も自らでは九峪を止めることは適わないと悟り始めた、もしくは怯え始めたのか、徐々にその命を奪わんと向かってくる者達の数が減っていく。九峪はその状況の変化を察し、乗馬の走りを速め、一息に敵陣最中央まで斬り込もうと気炎を吐いた。
 だが、その瞬間。
 目指す先。狗根国軍の本陣より、雷のような光が伸びた。
 九峪はその光に危機感を感じ、馬の進行方向を逸らそうとしたが間に合わない。咄嗟に九峪は飛び上がって地面へと逃れた。直後、先ほどまで九峪がいた場所が、周囲を包囲していた狗根国兵ごと無残にも抉り取られていた。何か巨大な生き物の口に噛み千切られたかのように腰から下がごっそりと消滅している狗根国兵達のうめき声が辺りに響き始める。
 間違いなく放たれたものは左道。それも超高精度の。何ごとが起こったのか理解出来ないように呆然と動きを止めている周囲の狗根国兵を無視して九峪は己の足で駆け始めた。心の中では更なる怒りがくべられていく。

「部下さえも捨て駒に、お前は!」

 誰の仕業か。そのようなことは考えるまでも無かった。己が部下の命を石ころのように捨てることができる非情の術士。そんな存在など、倭国全土を見渡してもただの一人しかいない。蛇渇。狗根国本陣より直線状に伸びた、左道による破壊の牙跡を走りながら九峪はその姿を見つけた。
 限界まで見開かれていたはずの九峪の瞳が、更に血走った憎悪に染まっていく。そして同時に、捜し求めていた標的を見つけ出した歓喜にも打ち震える。九峪は正しく狂っていた。

「く、かか。くかか。あの程度、あの程度で死ぬはずなどないと思った、思ったが。やはり抜けてくるか、か、神の遣いよ。しぶとい、実にしぶといな」

 しわがれた声が初めて九峪に応じた。左道により抉り取られた地面を九峪と同じく蛇渇は歩き始めた。周囲にいる狗根国兵達は身動きさえしない。それは蛇渇の勝利を確信しているからなのか、それとも人をやめた化け物に続くことで己の身に災厄が降りかかる事を恐れていることなのか。

「だがな、だが、神の遣い。いささか、いささかこの戦いには飽きた。終わらせよう。終わりにしよう。お前で詰みだ」

 髑髏に薄皮が一枚はり付けられただけの異形の持ち主、蛇渇はぼそぼそとそう言葉を口にすると、何ごとかを呟き始めた。呟きは祝詞ではなく呪詞。外法により紡がれた術はやがて魑魅魍魎を形作る。嘆き悲しみ呻き声を上げる人々が強引に練りあわされて作られた球状の力の塊。それは触れる命を喰らい腐らせ同じ場所へと引き落とすために全てを奪う。
 ぎゅるりっと物理法則を無視した嫌悪感を強烈に呼び起こす速度で近づいてきたそれを、九峪は大上段からの振り下ろしで弾き飛ばした。ガジッと鈍い衝撃と音が続き、それまで決して後退することの無かった九峪の体が後方に浮いた。とてつもなく重たい術は神剣をもってしても容易く断てるものではなかった。
 その事実を認識し悔しさと歯痒さに強く歯を噛んだ九峪は、吹き飛ばされそうになった体を支えるために、つま先に力を込めてから大きく跳んだ。腹の底。脳裏の奥底。記憶の断片。自らの激情をたぎらせ煽る全てのものを思い出しながら獰猛に笑った。何よりも、誰よりも純粋に怒りを胸にする。そして剣を振り上げると、次は容易く、己を先ほどは弾き飛ばした餓鬼の塊を両断した。
 耶麻台国に滅びをもたらした目の前の存在を殺すための全ての意思を、剣の切っ先に集中させていく。
 直後、再び九峪の命を奪わんと伸びてきた魍魎の塊を九峪は一撃で破壊せしめてみせた。

「こんなものかよ、蛇渇」

 窪んだ眼腔の底に黒い光を放つ蛇渇の瞳を強烈に睨みつけながら、肩で息をする九峪はそう挑発した。まさしく満身創痍でありながらも、九峪の目はいまだ死んでいない。足には力が未だ満ちており、駆け出す姿にも弱弱しさは感じられない。恐らくは最早止まらないのだろう。己の敵を誅するまでは。
 そんな姿の九峪を見て蛇渇はさもおかしそうに笑い声を上げた。

「かか。まこと、まことに威勢のいいことよな。しかし、しかしな、神の遣い。この蛇渇が、この程度、この程度であったならば、お前は今、こんな無様なことにはな、なっておらん」

 蛇渇は攻撃を止めて、なぶるように九峪を見下ろした。そして傷口を抉り取るような冷酷さで言葉を続ける。

「そうであろう、そうであろう? 神の遣い。――この蛇渇、この蛇渇がお前から、全ての、愚かにも狗根国に刃向かってきた、全ての仲間を、奪って、奪ってやったのだから」

 直後、蛇渇は再び左道を放った。直線状に放たれた力の奔流は、ただの一撃で九峪の剣に切り捨てられて霧散する。だがしかし、九峪もまた逆に切り込むことができない。

「それとも、それとも何か? 忘れてしまったのか? 仲間達を。お前を、お前を信じた者達を、神の遣い。そして、それを守れなかった、そう、守れなかったお前の弱さを」

 そこで蛇渇は、さも面白い冗談を口にしたかのように、かかっと下卑た笑い声をあげた。
 瞬間、沸騰したような殺意が九峪から湧き上がる。九峪は怒りからか駆け始めた。近づけば近づくほどに、高速で迫り来る左道を避けられなくなる。これが蛇渇の誘いであることに九峪は気が付いていたが、理性と感情は別物だった。最早足は止まらない。

「黙れよ、蛇蝎。今からそのよく喋る口を切り裂いてやるから」
「ふはは、はは。その姿、その姿で何を言う。最早、全身に致命傷、そう、死に至る傷を負ったお前が」
「黙れよ。それにこんなものは傷の内に入らない」

 直後、眉間を狙って放たれた左道を紙一重で九峪は叩き落した。傷は無い。だが、着実に術を打ち落とす際の余裕が九峪にはなくなってきていた。

「くかかっ、強がりを。――国を守れず、人を守れず、ただ、ただ生き延びただけのお前には、それしか、それしかできんのかもしれんがな」
「……黙れと言った」
「貴様の、貴様の仲間の死に様は、言い表せぬ、言葉では表せぬほどに、愉快、まさしく愉快だったぞ、神の遣い」
「――黙れっ!」

 九峪はその顔を憤怒の表情に歪ませて更に速度を跳ね上げた。ぐんっと低姿勢のままに地面を蹴って蛇渇へと一息に肉薄する。
 しかし、それもまた蛇渇の罠であったのだろう。肉の無い歯だけが浮き出た口をにやりと開くと、蛇渇は最早一撃で仕留められる位置まで接近した九峪へと向けて特大の左道を放った。かわせる距離ではない。
 だが、その左道を前にしても九峪は眉根一つ動かすことは無かった。最早避けられない距離、そこに迫る必殺の魔弾を見ても怯える素振りすら見せない。――否、それどころか九峪は表情を喜悦に歪めた。そして術に向かって加速し、左腕を突き出す。
 その様は狂っていた。

「何を、貴様――」

 初めて蛇渇がそこで狼狽した声を上げた。それもそのはず。九峪の行動は自殺行為にしかすぎない。そして、目の前の相手が例え死すとも蛇渇の喉元を食いちぎる覚悟を持っていることを、蛇渇は知っていた。だからこそ一瞬だけ思考にラグが生まれる。そしてそれだけで九峪には十分だった。
 ぐっと突き出した左手で、迫り来た力の塊を乱暴に九峪は握り締めた。――直後、左手の指がまるごと吹き飛ぶ。

「何かって――」

 そこから更に九峪はぐぐッと左手に力を込めた。一瞬だけ生じる力の拮抗。ばちばちと激しい力の暴走が巻き起こって、九峪の手の平が溶解した。だが、それでも九峪は止まらない。雷が散乱するほどに強く帯電した空気に頬を焼かれ肌を切り裂かれながら、その先を失った手首だけで尚も蛇渇の放った左道を押しのけるために力を込めて払う。それだけで九峪の左腕の骨と肉はがりがりと削られていった。しかし九峪は気にしない。

「決まってるだろう、蛇渇」

 そして最後、二の腕の付け根の部分までが左道に食われた直後、九峪は右腕に持った神剣で己の左腕の肘先ごと、蛇渇の左道を断ち切った。己の左腕を代償にした時間稼ぎで、九峪には例え至近距離から受けた左道であっても対処するだけの余裕が生まれていたのだ。
 ざんっとあっけない音が響いて力の塊は両断されると、直後に九峪と、そして蛇渇の至近距離で爆発した。閃光がごく僅かな間だけ辺りの空間を覆いつくす。
 この期、この機会。決して逃さないとばかりに九峪は七支刀を振り上げた。静謐でありながらも血に塗れるという矛盾した耶麻台国の神器はその瞬間に、青い輝きを放った。北斗の輝き。空に浮かぶ星々の連なりのような光が剣先から迸る。
 九峪は、網膜が光に焼かれていることすら無視し、己が左手の肘先から噴出する流血さえも無視して、己の必殺の状況を作り上げていた。獰猛に、笑う。

「さよならだ」

 終わりの宣告に蛇渇が逃れようと術を放つ構えを見せた。だが遅い。圧倒的有利な立場にあったために生まれた、致命的な隙。その急所を目掛けて放たれた神剣の輝きは何者にも防ぐことは出来ない。例えそれが、狗根国史上、凄惨たる働きをもって最高の術士と謳われた蛇渇であったとしても。
 一拍遅れて、九峪の剣から放たれた蒼き輝きは、周囲一帯を蛇蝎ごと焼き去り、断絶した。絶命の叫びさえも上げることは許されなかった。蛇蝎は、体の一部さえもこの世に残さず消滅した。それは報いであったのかもしれない。
 その場所。最早、焦土と化した斬撃の跡地で動くものは九峪と、その九峪を遠くから取り囲むようにして動く様子も見せない狗根国兵達だけになった。狗根国兵達は何ごとが起こったのか理解出来ないのか、呆然としたままに動かない。
 九峪は、そんな敵兵達の姿を見て、膝から力を抜いた。倒れる。

「……はっ、これは完璧にガス欠だな」

 ゆるゆると体から確実に熱が失われていく。もう、血は流れない。流れるだけの血を九峪は既に出し尽くしていた。後はショックで心臓が止まってしまえば、そこで終わる。九峪はそのことを理解した。安心したようにして笑う。

「これで、……やっと、あいつらと、同じ――」

 そう、不必要なまでにゆっくりと呟くと、そこで九峪は目を閉じた。地面に滲みこんだ赤い血が渇いていく。九峪の表情は病的なまでに青褪めていたが、何故かその顔は笑っていた。そして、徐々に動かなくなる。死を迎える瞬間。傍らには投げ捨てられた悲しげな七支刀が一振りだけ在った。
 九峪が死ぬ様を、遠巻きに狗根国の兵士達は見つめていた。
 だが、そんな時。

 りぃぃぃん。

 鈴の音が、鳴った。九峪の懐に大切にしまわれていた鈴が、音を発した。風も無い戦場に置いて、その音は何処までも何処までも遠くまで良く響いた。

 りぃぃぃぃぃぃん。

 そして更に大きく、強い鈴の音が鳴る。また、音に応じて九峪の周囲には淡い燐光がぽつぽつと浮かび始めた。一つ、二つと唐突に浮かび上がってきたその光は、徐々に数を増やし、最終的には九峪の体全体を照らすほどに強い光の集合体へと変化していった。

 りぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃん

 強さを増した光は、やがて九峪の体を抱き上げた。そして、優しげな声で語りかける。

「……、今か……君を……。さよな……くの……」

 それは弱弱しい声だった。ともすれば倒れた九峪よりも尚、死に近いと思わせるほどの。だが、それでも光は何ごとかをはっきりと呟くと、更に高く九峪の体を空中へと持ち上げた。
 鈴の音が一層強まっていく。九峪の体に集った燐光がぽつぽつと九峪の体の中へと入り込んでいった。光は九峪の負傷した箇所へと入念に入り込んでいるようだった。死にかけた九峪の傷が癒されていく。
 そして、耳鳴りを思わせるほどに更に鈴の音は強さを増していく。初めは光を調べようと近寄ってきた狗根国兵達も、今は耳を押さえて地面にうずくまり、音に耐えている。まともに耳にしたならば、頭が割れてしまうほどの音響は際限なく高まっていく。
 そして。

 りぃぃぃぃぃーーーーーーーーーーーーーん!

 一際大きな音が鳴った瞬間、九峪の体から爆発的な光の奔流が生まれた。それまで九峪の体の中に入り込んできた光たちが一斉に外へと向かって荒れ狂っているような、閃光の暴走。光の嵐はやがて現実にも影響を及ぼし、周囲に竜巻にも似た乱気流を呼び起こした。
 未だ生きていた狗根国兵達は、一斉に地面にうずくまって突如として生まれた災害に備えた。
 直後、ごおんっと火山が噴火したかのような鈍い衝撃と轟音が響き渡る。地面が震えた。




 それから暫くして、光の嵐が収まった後には、ただ一つ。赤い血に濡れた地面だけが残っていた。
 死に至る傷を負ったはずの九峪の姿は、どこにもなかった。




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