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「そろそろ出発しないと間に合わないな……」

 九峪に与えられた部屋の中央。様々な種類の木簡が散乱するその一室。ひたすらに腕を動かして当麻の街の統治関係の情報を整理していた九峪は、顔に目立った疲労の色を浮かべることも無く呟いた。
 蝋燭に灯るうっすらとした光のみしか部屋の中には存在せず、いまだ日が昇っていない時間帯であることを教えてくれる。昼間も働いていたにも関わらず今も眠りについていないとは、この男は本当に休息という言葉と縁が無いらしい。いや、敢えて遠ざけているだけであるのかもしれないが。

「美禰、去飛、児湯――――」

 かちゃり、と。筆をおいて九峪は立ち上がった。
 これから自らが陥落させなければならない街の名前を口にした彼の眼光は鋭く、口元は厳しい。茶化した印象などは消え去り、曖昧な表情が取り除かれた彼の顔には純粋な感情のみが残っている。憤怒。憎悪。哀惜。殺意。
 それは苛烈だった。
 何もしないことが苦痛であるとでも主張するかのように、部屋の中央で佇んでいるだけだった彼は徐々に歯噛みをし、眉を吊り上げていく。それは幾度と無く誰もいない場所で彼が浮かべた表情。これからも浮かべ続けるのだろう。望みをかなえたとしても、復讐を終えたのだとしても。

「――待っていろよ」

 一言。ただそれだけの短い言葉に自らが抱く全ての感情を含ませて、そして九峪はまた歩き出した。歩幅を乱さず、気配を殺して、激情を覆い隠しながら。
 それは、やはり苛烈だった。







「それじゃあ、俺達は先に動きます。後は頼みました」

 先ほどから一刻程の時間が経過した後、九峪は伊雅の部屋にいた。部屋の中には九峪と伊雅の他に志野、亜衣、香蘭、そして紅玉の姿も見える。
 別段、この面子が伊雅の部屋に揃っていることに関しては珍しくは無いのだが、一つだけ部屋の中には違和感があった。
 それは九峪の服装。常に鮮やかな蒼色の、この世界の住人にとっては奇天烈な服を身にまとっている彼が、控えめな色の麻の服を着込んでいたのだ。姿格好だけを見れば、九洲のどこにでもいる青年にしか見えはしない。――その眼光と左腕のあるはずの部分を除いて、だが。

「うむ……しかし、雅比古。この作戦に香蘭様と紅玉様を参加させるのはやはり――」

 九峪の言葉に頷こうとしていた伊雅であったが、何か納得できない点でもあるのか、彼にしては珍しく顔をしかめて言葉を返そうとする。が、

「伊雅様、この作戦への参加を決めたのは私と香蘭の意思です。決して無理やりに参加を強制されたわけではありません」

 その言葉を言い終えるよりも早く、伊雅の眼前にいた紅玉が伊雅の言葉を艶然と否定した。それは紅玉の外見と同じく柔らかい言葉遣いではあったが、紅玉の内面と同じく固い決意を感じさせる言葉だった。
 ゆえに伊雅の言葉を途切れさせるだけの力を持っていた。

「そういうことです。それに、こと危険性に関しては俺たちもそちらも同程度だと思います。――いや、紅玉さんと香蘭が揃っているから、もしかしたらこっちの方が安全かもしれません」
「僭越ながら伊雅様、私もこの人選が最適かと考えます」

 おどけたような言葉で、紅玉に続く九峪。そしてその九峪の言葉に更に続いて亜衣が賛同の意を示す。その場にいる大半の人間がこうなってしまっては、伊雅はそれ以上ごねること等はできなくなってしまった。
 そして、その言葉の中に一応は納得できるモノを感じ取ったのだろう、不承不承ながらという雰囲気は消えないにしても伊雅は腕を組み、

「……解った。こちらは任せておけ。ただし、お二人の身の安全は必ず確保するのだぞ」

 そう短く言葉を返した。

「了解しました。まあ俺が二人の心配をするなんて出すぎた真似のような気もしますけどね。――――では、話も決まったことですし、今度は美禰の街で会いましょう」

 まるで、伊雅が最終的に首を縦に振ることなどは解っていたとでも言うかのように、九峪は予定調和の如く言葉を返した。







 九洲南東部にある街道。当麻の街から美禰の街へと続くその街道を歩く、総計五人からなる異色の集団があった。男が一人、女が四人。着ている服は殆どばらばらで、露出の多い踊り子のような服装、大陸人が着込む魏服と呼ばれる服装、ほぼ黒色で統一された黒子の様な服装に、九洲の平民が着込む控えめな薄茶色の麻の服。
 まるで統一性という言葉に対して喧嘩を売っているような集団だ。

「何で志野と私まで……」
「嫌なら帰れば良いだろう。お前がいなくても問題は無いからな」

 そして、その煩雑な五人の集団の中の二人。一際幼い黒い服を着込んだ少女と、ただ一人の青年が長閑な気候を打ち消すかのように、互いに顔を背けたままで口論をしていた。説明せずとも解りそうなものではあるが、黒い服を着込んだ少女は珠洲、ただ一人の青年は九峪である。
 この二人は当麻の街を出る顔見せの時に一度だけ視線を合わせてから、それ以降二度とお互いに目を会わせようとしていなかった。

「志野、こいつもこう言ってるから帰ろう」

 そして、この二人は視線は合わせないにも関わらず、言葉による応酬だけは途切れさせずに続行させていた。
 珠洲が噛み付き、九峪が嘲笑と共にそれを流す。そんな会話の流れが既に二刻程の時間続けられていた。それも、ゆったりと歩きながらではなく、ほぼ走っていると言ってもいいほどに速いペースで歩きながら、だ。
 無駄にある彼らの体力を褒めるべきであるのか、あるいは無駄に体力を浪費する彼らが愚かしいのか、判断の難しいところである。

「はっ、口を開けば志野志野志野。お前には自我ってモノがないのか? 志野がいるからここにいる、志野が帰れば私も帰る、そんな軽い理由で付いて来られたら、こっちにとっても迷惑になる」

 そんな彼らの口論を最初は諌めようとしていた他の面子――――紅玉、志野、香蘭ではあったが、今ではそんな諫言など口にすることもなくなっていた。言っても聞きそうな相手ではないし、不思議と殴り合いや掴み合いといった事態には突入していなかったからだ。
 紅玉、志野は半ば呆れたような表情で、香蘭はいつものようにニコニコしながら二人の姿を眺めている。

「志野……」
「いじめられているから助けて、とでも続ける気か?」
「違うっ。誰がお前に」
「なら何だ。志野が帰ると言ってくれないから悪い、とでも言おうとしたのか? 自分が帰ればそれで問題はなくなるのに、その責任を志野になすり付けるなんて信じられないガキだな」
「うるさい、黙れ」
「お前が世を拗ねたガキを気取った言葉を吐かないなら俺だって黙るさ。まあ拗ねたガキが拗ねたガキらしくない言葉を吐ける訳なんて無いんだけどな。ガキだから」

 一向に二人の口論は止まる気配が無い。徐々に子供の罵り合いの様相を呈してきてはいるが、お互いに一歩も退こうとはしていない。この調子ならば、お互いの体力が尽きるまで二人は舌を振るってお互い貶しあうだろう。

「すみません、紅玉様。うちの珠洲が……」
「いえ、まだ美禰の街までは距離もあります。それまでは少しばかり騒いだとしても構わないでしょう。――――それに、私は珠洲ちゃんよりも雅比古の方が驚きです。彼はもう少し冷静な人だと思っていたのですが」

 そんな二人を、少しばかり離れた場所から見つめながら志野と紅玉。志野は自分の連れである珠洲が騒いでいる事に少々の罪悪感を感じ、紅玉はかなりの傑物だと考えていた九峪がまるで捻くれた子供のような口論をしていることに驚きを感じていた。ゆえに、彼女達二人も普段とは異なった印象を受ける。
 五人の中で、普段通りの精神を保てているのは香蘭のみである。五人の一番後ろを歩きながら、ずっと飽きもせずに四人の様子を眺めている。九峪と珠洲を止める様子も無く楽しそうだ。

「確かにそうですね。ですが、発端は珠洲が噛み付いたことでしょうし。私があの子を付いてこさせなければ――今回の作戦で失敗することは許されないというのに」
「それは今さらというものでしょう。作戦の発案者である雅比古が許可したと言う事は、それなりに算段あってのことなのでしょうから。彼はそこまで甘くない、というのが私の個人的な見解です。……まあ、少しだけ不安になっていますけれど」

 ぎゃーぎゃーとがなり立てる二人の暴言が聞こえる中で、二人は真面目な話をしているのだがやはり締まらない。
 どうにもこうにも幼児の世話をしているような気持ちだ。そういえば香蘭の小さい頃は本当に可愛かった。などと、余りにも稚拙な言い争いを聞いていたためか紅玉は軽く過去を回想し始めてしまった。
 志野は志野で、二人には仲良くしてもらいたかったのにどこを間違ってしまったのだろう。それとも珠洲が自分以外の人間と仲良くするだなんて、まだ無理だったのか。などと、彼女らしくない諦めのため息を心の中で大きくついていたりした。
 まあ、香蘭だけは心の中で、平和が一番。などと彼女らしい事を考えることが出来ているようだが。

「不安は杞憂になる、とは思います。珠洲もあれで年の割には腕が立つと思いますから」
「え? ……ええ。そうなることを望みましょう」

 やや反応が遅れたが紅玉は志野の言葉に頷いた。
 彼女達がここにいる理由は軽くない。知り合い同士で呑気に旅行などしているわけではなく、これでも合併軍の行く先を左右するだけの重大な任務を遂行するために美禰の街まで進もうとしているのだ。
 美禰、去飛、児湯の三つの街を狗根国が動くよりも早くに手に入れる。九峪は幹部の前でそう言った。その言葉を実現するための作戦案を提示した。そして提示された作戦案に、幹部達はどのような理由であれ首を縦に振った。だからこそ彼女達はここにいる。
 今この場にいる五人は、まずは作戦の手始めとなる美禰の街を陥落させるための第一手。城郭都市陥落のために組織された特別部隊と称しても誇張は無いはずである。
 それなのに、その特別部隊の五分の二が罵り合っているから安心出来ない。
 九洲に来てより、初めて紅玉は胸に不安を抱いていた。

「――もしもの場合には私と香蘭でどうにかしてみせましょう。兵士の成長は全く期待できませんが、私と香蘭の二人がかりでなら百人程度の相手をすることは可能だと思いますから」
「けれど、それは……」

 事実として、現在の美禰の街の兵数が九峪の予想通りに百を下回っていれば、香蘭と紅玉、さらには九峪の人間の限界にかなり近い高みにいる強者達を使って強襲でもさせれば高い確率で陥落させることはできる。だが、その方法だと幾つかの問題が生じる。
 まずは一つは兵士の成長が望めない。たった三人だけが戦って街を一つ手に入れてしまっては、戦の経験の少ない合併軍の兵士達が戦闘に参加することが出来ないのだ。そうなると、自然と新米兵士達は成長しないままに次の戦いへと移る事になり、それは軍にとって致命的な痛手となる。勝ち戦に兵士を参加させれば士気を上げて、自信をつけさせることができるのだが、それが不可能になってしまうわけだ。戦いが進むにつれて敵の練度は上昇していく。今回の戦いほどに勝ちが望める戦いは今後現れないかもしれないから、この機会はなるべくならば捨てたくないというのが紅玉の考えである。
 そして二つ目は街の住民の安全を確保出来ないということだ。陥落させることはできるとはいっても、手足の数には限界がある。どれほど素早く敵を征圧していったとしても瞬時に敵を葬り去ることなどはできない。そして、それが出来ないのならば敵は逃げるなり街の住民を盾にするなりしてしまうだろう。そうなれば街を陥落させた時に多くの住民が犠牲になることだろう。それは、合併軍の方針からも避けるべきだった。
 さらに三つ目は華が無い。余り重要ではないように思えるかもしれないが、戦のような血なまぐさい抗争では、いや血なまぐさい抗争であるからこそ綺麗事が必要だ。自分達を救いに来た兵士達が颯爽と狗根国兵士達を打ち破って街を手にしたとなれば、俄然、街の住民達も合併軍のために力を貸そうと思うだろう。しかし、夜が明けて気がつけば街が制圧されていました、ではやや印象が弱い。まあ、この点に関しては可能ならばというほどの弱い要素でしかないが。
 
「雅比古の思惑通りに事態が進むことは私も願っています。ですがもしもという場合も考えられます。ですから――――いいですね、香蘭?」

 何か言葉を口にしようとした志野に向かって解っているとばかりに紅玉は頷き、そして続いて香蘭に視線を向けた。

「わかてる、よ」

 ふんふんと鼻歌でも歌いながら九峪と珠洲の言い争いを眺めていた香蘭であったが、目の前の紅玉たちの話も聞いてはいたようだ。その呼びかけにこくりと頷く。彼女自身も百程度の相手ならば母親と一緒にどうにかできると考えているということだろう。実に剛毅なことだ。

「それに、そんなこと、考えなくても、だいじょぶね」

 頷いた後に黙り込むかと思えた香蘭だったが、意表をついて二人に向かって言葉を続けた。
 道中、余り口を開かなかった香蘭の言葉に、自然と志野と香蘭の視線が彼女へと向く。
 その視線を受けて香蘭は、自信満々に胸を張り、

「二人、きっと、仲良い」

 紅玉と志野の二人の会話を全く聞いていなかったかのような言葉を言い切った。







「はあ、こんなことしていて天目様の命令をやりとげることが出来るんですか?」

 場所は変わって美禰の街。
 山菜や魚介類、それらを物々交換するために集まった人々で賑わっている大通りの一角。その場所に彼女達はいた。地面に怪しげな生薬の類や軟膏らしきものを置いて行きかう人々を観察しながら。

「これが一番の近道なんだよ」
「近道って……さっきも腰が痛いって言ってきた人にタダ同然で薬をあげたりして、忌瀬さん本当はやる気がないんじゃないですか?」

 真姉胡と忌瀬。反乱軍について深いところまで探って来いという無理難題を天目に押し付けられた二人はこの場所にいた。それも何ら目立った行動など起こさずに。
 既に美禰の街にやってきてから一日と少しの時間が経過しているが、やったことといえば薬を商売する気が無いような適当な値段で売ったことくらいだ。

「まあ、やる気が有るとは言わないけど、無いってわけでもないさ」
「じゃあ、どうして何も行動しないんですか? このままじゃ確実に天目様にお仕置きされちゃいますよ?」

 ぶるぶるっと両腕を震わせて、怯えた小動物のように真姉胡が言った。何か怖いものでも頭の中で想像しているのか目を瞑っている。

「真姉胡はもうちょっと頭使って考えな。街で広まっているような浅い情報じゃなくて、もっと深くて詳細な反乱軍の情報を手に入れようと思ったならどうすればいい?」

 そんな先ほどから疑問ばかり口にする真姉胡に呆れたのか、忌瀬は半眼で真姉胡を眺めながら言葉を返した。

「えーと、そりゃあ反乱軍に潜り込めば良いんじゃないですか?」
「そうだね。潜り込む、それが一番だ。――それじゃあ次の問題。どうやって潜り込む?」

 一瞬の間をおいて述べられた真姉胡の言葉に頷いた忌瀬は、先ほどと同じ調子で更なる質問をした。彼女には余りやる気というものが見受けられず、真姉胡に質問しながらも地面に訳の解らない落書きのようなものを指で書いたりしている。当然ながら眼前に置いている薬など欠片も売る気が無いようだ。

「潜り込むって言ったら、こう、こっそりと侵入しちゃえば良いと思いますけど」
「まあ、それも悪くない方法ではあるね。けど、それだと危険が大きすぎるし、望んだときに望んだ情報を引き出せるかは解らないから適当だとは言えない」
「なら、忌瀬さんはどうすれば良いと思うんですか?」

 真姉胡の答えを悪くは無い、と言いながらも肯定するわけでもない忌瀬に対して首を傾げて真姉胡。外見や仕草からはただの少女としか見れないが、これでも彼女は秀でた諜報能力を有している。

「簡単さ。仲間に入ってしまえばいい」
「へ? 仲間に入る、ですか?」
「そう。内側に入ってさえしまえば情報なんて取り放題だよ」
「……忌瀬さん、簡単に言いますけど余所者の私達がそう簡単にあっち側に入り込めるとは思えませんよ」

 それまでと少しも口調を変えずに、敵側の仲間になればいいと言い切った忌瀬に向かってやや懐疑的な視線を向けながら真姉胡。その眼差しが、忌瀬の言葉が的外れではないだろうかと主張したそうにしている。どうにも彼女は考えていることが顔に出易いようだ。暗殺、情報収集、一通りは裏方の業を学んでいるはずなのに珍しい。

「まあねえ。今から当麻の街まで出向いていって、力になりたいので仲間に入れてください、なんて言ったら確かに怪しすぎる。九洲の人間だってのならまだしも、どちらも九洲の人間じゃないんだから尚更だね。だから、こちらから仲間に入れてもらうという手段は使えない」
「ですよね」
「けどね、今あちら側は言ってしまえば成長期なわけさ」
「成長期、ですか?」
「そう。成長期。――ちょっと、ここ見てみな」

 真姉胡の言葉に頷いた忌瀬は、ちょいちょいと地面に向かって指差した。ゆえに真姉胡もそちらの方へと視線を向ける。そこには大きな丸が一つに、それを囲むように三つの小さな丸が描かれていた。
 どうやら先ほどまで彼女が描いていた落書きはこれであるらしい。

「この一番下にある小さい丸が当麻の街にいる反乱軍」

 そう言って、彼女は一番下側にある小さな丸を指差した。

「そして、これが反乱軍が街を落とすことによって手に入れられる兵力。美禰に去飛に児湯を手に入れることができれば、あちらは少ない兵力を増強できるってわけさ」

 更に指を上方へと動かして、三つの丸を指差していく。

「で、ここまで言ってしまえば真姉胡でも解るとは思うけど、復興軍はこれから何をすると思う?」
「真姉胡でもって言うのが引っかかりますけど……まあ、この街を落としに来ると思いますけど」
「馬鹿でも考えれば解る答えだけど、正解だよ」
「忌瀬さん……」

 快活に笑いながらの忌瀬の言葉に対して不服そうにして真姉胡。睨む、とまではいかないが視線が強まっている。

「ははっ、まあ、そう怒らない。で、もう問答するのにも飽きたから答えを言っちゃうけど――反乱軍が勢力を広げ続ければ確実にこの街にも手を伸ばす。それで成長期で兵士が喉から手が出るほど欲しい反乱軍は必ずこの場所で兵員の募集を行う。だから私達がその中に紛れ込んでしまえば問題ないってわけさ」

 からからと面白そうに笑いながら忌瀬は言う。何とも軽そうで楽天的な様子だ。

「それだけで大丈夫なんですか?」
「間違いなく今の時期に入隊希望の兵士を一人一人調べていく余裕なんて、あちら側にあるはずがないんだ。私ら二人が当麻の街に出向いていって仲間にして下さいっていうよりも、大勢の人間に紛れ込んで中に入ってしまうほうが、よっぽど確実性は高いと思うよ。まあ、それでも私たちは余所者だから怪しまれるかもしれないけれど、そのために今ここ美禰の街で少しばかりの実績みたいなものを作っているわけさ。適当に商売やったりして、私達前からここにいましたー、ってことを主張している段階になるのかな」
「え? ええっと……ああ、そういうことなんですか」

 腕を組んでうんうんと唸っていた真姉胡は、理解できたのかほうと頷いた。

「そういうこと。まあ、ここで数日商売やったってスズメの涙程度の信用しかえられないだろうけどね。それでも、大勢の人間と一緒に心底兵士を欲しいと思っている反乱軍に入隊するための証明程度にはなるわけさ。――ただ、反乱軍がここまで来れないようなら失敗になるんだけど、まあ、この場所も陥落させられないような組織なら調べるまでもなく自滅してくれるだろうし」
「私はその方が面倒が無くていいなあ」

 真姉胡と忌瀬。
 二人は美禰の街の大通りの一角で暖かい陽光でも浴びつつ、周囲の人間に聞かれないように物騒な話をしながらも、のんびりと時間が過ぎるのを待っていた。