「ゆういち〜。電話だよ〜」

一階から名雪の間延びした声が届く。
俺はやれやれ、と読んでいた文庫本を本棚に戻すとめんどくさそうに部屋から出た。

トントン、と一段ずつ階段を下りる

「名雪。誰からだ?」

「でればわかるよ」

名雪は「ごゆっくり〜」、と言い残し何処かへ去っていった。なにやら嫌な感じがして堪らないのは気のせいだろうか?


「はい、お電話代わりました」

『あっ!祐一さんですか?私です、しおガチャッ!!



―――――ふむ。ちょっと疲れているのかな?幻聴が聞こえたようだが・・・



瞬間、再び電話がやかましい位鳴り響いた。


「はい。水瀬ですが」


『あ。祐一さんですね、祐一さんでしょう、祐一さんに違いないですよね?』


もし、俺じゃなかったらどうしたんだ?、とツッコミを入れたい衝動に駆られるがこの際置いておくことにする。


「ああ。祐一さんだが?・・・それよりも聞いてくれ」


『何ですか?』


「ついさっきだけどな、栞の生き霊と会話してたんだ」


『何を言いやがりますか!さっきの電話は正真正銘の私です!』


「何!?生き霊じゃないのか?」


『当たり前です!混じりっけ無し、純栞分100%の私です!』


「・・・そうか。じゃあさっきのは生き霊じゃなくて栞自身だと?」


『そうです』


「ん。わかったそれじゃあな」


『あ、はい。それでは』



がしゃん、と受話器を置く



「あれ?電話終わったの?」


「おう」


「そっか。じゃあお昼ご飯にする?」


「だな」



そう言いながら俺はテーブルに座り――――――――――ジリリリリリ!!!



三回目の電話が鳴った。




「あい、水『なんで切るんですか!!?』


「なんだ、栞か。俺は今、昼食の時間を邪魔されて非常に機嫌が悪いんだが」


『それはこっちの台詞です。まだ、私の話はすんでないんですよ?』


「そうなのか?話はさっきの電話で一件落着したはずだが?」


『は?』


「いや、一回目の栞が生き霊か本物か『でぃすかっしょん』して、やはり本物と言うことで双方の合意が取れたと思うぞ?」


『・・・・』


「それともなにか?やはり、あの時の自分は生き霊だったと今更ながら主張するのか?」


『しません!!というか何で生き霊なんですか!』


「いや、ただ単に夏と言えば、怪談とかホラーっぽいモノがうけるだろうなぁ、と」


俺がそう冗談交じりに答えると返事が返ってこなかった。耳を澄ませてみると、なにやら暴れている模様

『・・・もしもし。相沢君?』

香里がでた。

「あれ?その声は香里か?」

『そうよ。栞じゃ何時までたっても駄目みたいだから』

「・・・で。あいつは結局なんの用事なんだ?」

『ちょっと長くなるんだけど』、と香里は言葉を濁した


まぁ、ここまできて聞かないのもあれなので俺は香里の言葉に耳を傾けた・・・。




  
                



続々・バニラ味







「大変だな」

『・・・ホントに大変よ?』

長いようで短い香里の話は終わった。

要約すると、明日が夏休み最終日だというのに栞は一つも課題を終わらせていないらしい、とのことだ

「・・・それで俺にどうしろと?」

『アイスを買ってきてほしいのよ』

「はい?」

『なんでも「アイスがあればアドレナリンMAXで通常の三倍の速度で終わります〜」とかなんとか』

「・・・俺に買ってこいと?」

『頑張ってね美坂栞専用アイス調達係さん』


「ヲイ。今、ものすごく聞き捨てならない事を言わなかったか?」


『目の錯覚ね』


「目は関係ないし」


『じゃあ相沢君の耳が一時的に難聴になったとか、幻聴だったりしたとか?』


「自慢じゃないが耳は良い方だ」


『・・・まぁ。とにかく来てね』


「えー」


『どうでもいいけど栞が「早く来ないとばらしますよ〜、捏造しますよ〜」って言ってるわよ?』


「ああ、行くよ!、行きます!、行きゃあいいんだろうがっ!!!」







              ◇







チッチッチッチッチッチッチ―――――

ただ静寂がこの場を支配していた。いつもなら気にもとめない柱時計の秒針の音がヤケに耳に障る。

まるで、時間がコールタールのように粘質化してしまったようだと思った。。


原因としては、いくつか上げられる。



1.


地球外生命体(あと、やぎしゃぶりとか)による精神攻撃



2.


謎邪夢



3.



俺の目の前でニコニコと笑い、無言の圧力を掛けてくる美坂パパ





さぁ、どれでしょう?




「相沢・・・祐一君だったね?」

「あ、はい」

俺が「正解は3だったか」と、現実逃避をしていると美坂パパが呻くように呟いた。


「娘達とはどういった関係で?」

圧力が更に増す。頼みの綱の美坂姉妹は居ない、つまり逃げた。

とりあえず当たり障りのない「ただの友達です」と答えた。


「友達・・・かね?」

「そうです。香里とはクラスが一緒で、栞と「いや、皆まで言わなくともいい」


美坂パパは俺の言葉を遮り


「ようするにあれだ。君は私の愛する妖精達を狙うハイエナなわけだ」


いや、そんな笑顔でハイエナとか言われても


「友達?クラスメイト?バカ言っちゃいけないよ・・・それだったら何故ただの友達をわざわざ家に呼ぶ必要がある?しかも異性を」


そう言い終わると美坂パパは目を不気味に光らせてゆらぁぁぁっ、と立ち上がった。

具体的に言うなら「ぎゅぴーん」





―――――って・・・もしかしてこれから殺られちゃったりしますか?俺





「はいはい、そこまでですよあなた」


いつのまにやらひょっこりと美坂ママが俺の前に現れた。


「む。何故邪魔をする母さん!こいつは私達の愛の結晶を狙う不届き者だぞ!?」

「あーはいはい。話は向こうの部屋で聞きますよ〜」



「えーい離せ!!」
「駄目ですよ〜」
「―――――!!!
「―――――」










ゴキャッ!!






―――――あ、折れたな






「ごめんね祐一君。うちの主人がバカなことを言って」

「あ、おかいまなく。それよりもおじさんは―――――」

「あのね祐一君。人間は時として訊かない方がよかった、って後悔することがあるそうよ?」

「・・・以後気をつけます」


そうなんとか絞り出して答えると美坂ママは一転して陽気な表情になり



「それよりも祐一君」

「なんですか?」







「香里と栞、どっちが本命なの?」







――――――――――はい?



「あっ、もしかして本命は別に居てあの子達は二号と三号さん?もしかして両方美味しく頂いちゃった?」

「いや、あのえっと・・・」

「駄目よ〜姉妹ど○○りは。日本の法律じゃあ一夫多妻制は認められていないのよ?」




ああ。なるほど


栞は絶対母親似だな、とそう直感した

この暴走具合と言い、論理展開と言い、まさしく栞そのもの―――――いや、それ以上だ


瞬間


俺の頭脳は戦略的後退を全面的に支持した。



「あーえっと、じゃあ2人のとこに行くので・・・」

そう呻くと美坂ママは笑いながら言った「程々にね〜」という謎の言葉を












いやホントにもう勘弁してください








          ◇
 




「大変だったわね」扉を開けるやいなや香里はそう言い放った。

「大変もなにも、まさしく大変だったが?」


そうね、と香里は呟きながら紅茶を優雅に飲む


―――――それに比べて



反対側を見るとわき目もふらずバニラアイスをかき込んでいる栞の姿。

どうせツッコミを入れたところで「バニラアイスですから」と、あたかも当然のように言われてしまうだろう

流石はバニラ魔人、と心中で付け加えながら自分の分のアイスを取ろうと―――――




「無い」


ビニール袋に手を入れて探ったり、逆さにしても出てこない。と言うことは


「おい、そこのバニラアイス限定小宇宙的フードファイター(別名白い悪魔)。俺のマーブルチョコをどこへやった」

「ああ。あれですか・・・駄目ですよ〜祐一さん。あのアイス、バニラが六割しかなかったですよ?食べてて「罠!?」とか思ったりしました」と、のたもうて

更に


「残すのもあれなんで仕方なく食べましたけど」と、付け加えた。



「てめぇ・・・」



よくも俺のマーブルチョコを・・・、と叫びそうになる



「あっ、もしかしてあれ祐一さんのだったんですか?じゃあ代わりに私がバニラアイスの次に好きな食べ物を上げますから」


だから、許してください、と栞は頭を下げた。


というか主食はバニラで身体もバニラ、血潮もバニラで心もバニラ

だからきっと、その身体もバニラで構成されていると確信していた栞にバニラアイスの次に好きなモノがある!?




狼狽えていると栞は「じゃあ、持ってきますね〜」と外に出ていった。




「なぁ、香里。あいつにバニラアイス以外に好物ってあったんだな」

「それぐらいあるともうけど・・・それよりモノによっては逃げる準備をしないと・・・


なにやらブツブツ、と顔を青ざめて呟く香里



「おい、香里おま「お待たせです!!」


おまえ、何か知っているのか?、と訊こうと思ったが

ヤケにハイテンションな栞が褐色というか琥珀色の液体の入ったグラスを持って帰ってきたので訊こうにも訊けなかった。




「はい!どうぞ祐一さん。冷たくて美味しいですよ♪」

「お、さんきゅ」




グラスを受け取った俺は一気にそれを流し込み――――――――――








吐き出した。





「あー。祐一さん汚いですよ?」

「それどころじゃねぇ!!これビールじゃないか!?」

「ビール?嫌ですね〜、これはジュースですよ?麦からつくった麦ジュースなんです」


何を言ってるんですか?とでも言いたげに俺を見る。


「ささっ、祐一さん。飲んで飲んで」



「ちょっ!ちょっ!。おい香里これはどういう・・・って居ない!!???」


そうこうしている間にも栞はごくごく、と水のように麦ジュース?を飲む続ける。


「ゆういちさぁん」

「な、なんだよ」


酔っているからなのか、いつもと違う妖艶な雰囲気で抱きつく栞


再び俺の名前は呼んだかと思うと、麦ジュースを口に含み―――――





ドサッ!



俺を床に押し倒した。





「おい!ちょっと待て栞。落ち着け?深呼吸だ・・・って無理か。いいか早まるな?」




慌てて俺が叫ぶと


栞はつい先日の百花屋の時の様に小悪魔的な笑みを浮かべ―――――




流し込んだ。



Q何を?



栞が麦ジュースと言い張るモノ



Q何処へ?



俺の口へ




Qどのようにして?


差し込んで、縦横無尽して校内10周。










イコール






校内祇園祭り開催中




そして、俺の意識(理性でもいいや)の砦は崩壊する運びとなり。


最後に覚えているのは視界全てを埋め尽くす栞の顔だった・・・・・・。









             ◇








ちゅんちゅん


鳥のさえずり、そして窓から差し込む陽光は確実に俺の意識を覚醒させていく。




―――――えっと、夢オチ?



俺はとりあえずそう自己完結をして起きあがろうと手をベットの端についた。



「―――――あん」なんか色っぽい声と柔らかい感触


「あれ?」

俺は不安になりながらも布団をめくると―――――栞が居た。しかもヤケに満ち足りた表情の



おかしいぞ?だいたい夢だったはずだ。じゃあこれは生き霊?幻視か?錯覚か?
いや、まて大体この部屋は俺の部屋じゃ無いしってなんで俺と栞は服を着ていないんだ?あーあたまが痛い



数刻。俺は自問自答を繰り返し、出た結果・・・。





―――――つまり、酒によった勢いで





「―――――やっちゃた?」




呆ける俺の事などつゆしらず、栞は相変わらず幸せそうに寝ているのであった。








そして、この後、美坂パパが鉈を振りかざしたて「ほーら、ざっくりピーナッツ♪」と叫びながら俺に襲いかかってきたことは言うまでも無い。










とまぁ、こんな風に俺の一日は賑やかに始まるのであった。











  続々・バニラ味


〜本当は麦ジュース味だったけど、栞が祐一を味わったり祐一が栞を色んな意味で味わい尽くしたということ〜





終わり









後書き


まず、このSSを書き上げるにあたり「ほーらざっくりピーナッツ」などの小ネタを教えてくれた友人に感謝。
もし、麦ジュースネタを教えてくれなかったらこのSSはなかったでしょう。




2004/07/26 アーティ








追伸・校内と祇園は漢字を変換すれば意味は通じると思います。