砕けた壁



焼け落ちた天井



朦々たる黒煙



煤と血に濡れた自分の腕



地面に横たわる魂無き入れ物



辺りを、彼方を埋め尽くすのは



ただ、紅い炎のみ



その中



眼前に二つ、動くものがあった



金と銀の化け物



その巨大な体躯は無造作に壁をなぎ払う



壊れた



あっけなく壊れた



細かく崩れた壁の破片は彼の身体に容赦なく降り注ぐ



声も出ない



今の彼には眼前に居る化け物から逃げ出す力



いや



苦悶の呻きを出す力さえ残っていなかった



惨めなモノだ



守ると誓った人も守れず



自分だけのうのうと生きているなんて



惨めにも程がある



彼は瞳で目の前にいる化け物に訴えた







なぁ・・・・殺してくれないか?







すると化け物はその口を醜く歪めるとその場から去って行った。



ポツポツと空から雨が降り出してきた



雨は彼の弱った身体を無情にも叩く



彼は思った



自分には死ぬことさえできないのか?、と



最後の力を何とか振り絞り



這う



折れた腕を揺らし



潰れた脚を引きずりながら



彼は這っていく



「・・・・・・・・・・・・・・・・」



それには苦悶の表情が無かった



あるのは優しい微笑を浮かべた顔



だがけして開かれることのない瞳



紡がれることのない言葉



もう戻ることのない時間



もうその愛くるしい顔を見せてくれない



もう自分の名前を呼んではくれない



失ってから







失ってこそ解る本当に大切なモノ















雨は更にその勢いを増していく



「・・・・・・・・・」



彼はかろうじて動く腕で彼女の髪を梳く



何処か遠くで雷鳴



「・・・・・・・・・・・」







”力が欲しいか?”







突然、何処からか声が響く







”・・・・・・・・力が欲しいか”







もう一度同じ声



彼は言った



あいつらを倒す力が、彼女を生き返らせる力が欲しい、と







”・・・・・・・いいだろう”







声と同時に何かが彼の眼前に現れる



その姿は



同じだった。



彼と彼女の幸福な時間を奪った化け物と



「・・・・・・・・・っ」



「安心しろ人間」



化け物は言った



「我は奴らとは違う、奴らは裏切り者だ」



「我は『神護の狼』が一柱、黒狼・・・・そう呼ばれている」



化け物------黒狼は彼の方を向いた



「・・・・・・・貴様が手に入れる力は我自身、我はお前となり、お前は我となる。 其処の死の淵に逝こうしている人間もついでにな」



彼は緩慢とした動作で彼女の方を向いた。



まだ生きているのか



彼女はまだ生きているのか!?



死人同様だった彼の瞳に僅かながら光が灯った



「・・・・・・早くせねばお前も其処の死にかけも死ぬが・・・良いか?」



黒狼が刻限を告げる



迷っている時間は無い



そもそも自分が選ぶ選択肢は一つしかありえない



彼は黒狼に手を伸ばしその表皮に触った



あたかもその行為で意思が伝わると思っているかのように



「・・・・・・・・・契約は受理された。お前達はこれから途方も無い戦いに身を投 じることになる、奴らを倒すまでその身は決して朽ちず、老いることもない。」



つまり人間では無くなる



だが、それでも良かった



彼女も助かったし、家族や街のみんなの仇を討つための力も手に入る



「・・・・・・・人間よ。我と同化する前に一つ聞いておこう」







「汝の名は?」







黒狼が言った。























「名前・・・・・。俺の名は-----------」























〜黒狼〜



プロローグU



   了























後書き



黒狼プロローグUをお届けしました



こういうシリアスな文は疲れます



さて、先のプロローグTと同じく改討前と比べ恐ろしく様変わりしました。



改討というより作り替え?



まぁ・・・・・設定変更したりキャスティングを変更したらこういう形に成ったと・ ・・・・・



それでは



次回もよろしくお願いします。



2004/01/18 アーティ