注・色々と壊れ気味です。





思えば、それが波乱の幕開けであり、修羅場一歩手前だったんだなぁ、と俺はそのとき悟った。


相沢祐一の日記より





新・バニラ味





「なぁ、相沢」

夏休み明け一番の登校、つまり始業式が終了した後で北川が言った。

「相沢ってさ、栞ちゃんと付き合ってるんだな」
「―――――――――ハイ?」

チョットマテ。相沢ブレイン思考停止、回路強制遮断。メインに致命的なバグ発生。わーにんわーにん

迂回路設定。サブ回路でシステム再起動―――――凍結。
原因解析

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―――原因特定。バグに対して対抗術式発動 カウンタープログラム

起動まで三秒。







「バカダナァ、北川。そんなことあるワケないじゃないか」
「いや、動揺しすぎ」

冷たいツッコミが容赦なく俺の心を抉る。ああ、俺の繊細な硝子のハートが粉々に

「どっちかと言うと強化硝子かもな」
「よし、その喧嘩買った。・・・ってそんな場合じゃねぇ!! 北川、そんなデマどこで耳にした!」

いや、まぁ実際の所。デマじゃなくて本当なんだが、恥ずかしいから認めるのは癪だし。
俺の言葉に、北川は一瞬躊躇するような表情を浮かべ―――――言う。




「美坂とか美坂とか美坂とか?」




・・・・・・・・・ヲイ

ギギギギギギ、と言う音が響きそうな感じで首を半回転。目標は他人の振りをしているらしく
窓の外を見て「今日もいい天気ね」などとのたまっていた。

「おいこらかおりん!!」
「かおりんって呼ばないでよ相沢君――――いえ、義弟(予定)と言ったほうがいいかしら?」

ニヤリ、と香里が邪笑すると『をををををを』と、教室の連中がどよめく
と言うか、美坂さん。わざと騒ぎを大きくしてますね? 周囲に俺を妹の彼氏、と認識させるために。
つか、付き合ってるの秘密なんだぞ?

「あの時のことは元々香里の所為!―――でもないかも知れないが割りと責任あるだろうが・・・あの時逃げたし」
「だって、あの子酒癖悪いんだもの。すぐ絡むし、暴れるし」
「だったら警告の一つや二つしてくれたっていいのでは?」

引きつる表情筋を必死で押さえながら、なるべく優しく――――そう、紳士の如く問いかけた。
でも、背中には禍々しいオーラが展開されているに違いない。

「それはね、相沢君。俗に言う人身御「相沢パンチ!!」

香里が台詞を言い終わる前に、渾身の右ストレート。それは確実に香里の下顎を捉える!!

「ぐぼはぁ!!」
「何!?」

右手が捉えたのは、頭の頂から奇妙な電波塔を生やした男―――――北川? だった。

「―――ッチ! 空蝉か!!」

軽く舌打ち。そして、おもむろに北川の懐を漁り、財布をゲット
次に殴り倒した北川の上に、『見舞金』と書いた紙を置く。同時に彼の財布からお札を抜き出して、その紙のすぐそばに設置。
よし、OK
これで「ばいしょうもんだい」はクリアだ

「・・・意外と容赦ないわね」
「いや、盾にした奴の台詞じゃないと思うのは俺だけでしょうか?」
「・・・その前に、女の子に対して全力で殴ろうとする方がどうかと思うけど?」

とりあえず、それについては爽やかにスルー。
ちなみに、床では北川が「か、髪の毛が・・・巻きついて」などとうわ言を呟いている。
拙い、精神的にアレになってる。黄色い救急車を手配した方が良いんだろうか

「それよりも相沢君」
「なんだ香里。俺は今、猛烈に怒髪天なんだが」
「怒るのはいいけど。その話は私が広めているわけじゃないわよ?」

再びハイ? と思わず声が漏れる。
それは一体どういうことでしょうか?

「確かに、私は北川君にそういう話はしたけどね。私だって、ただ人から聞いただけだし」
「・・・そうだったのか。悪いことしたな」


「ま・・・ず。お・・に謝、れ」


何処からか呪詛めいた言葉が耳を打つが気にしない。

「じゃあさ香里」
「何? 相沢君」
「香里は、その噂――――つーかデマを何処で聞いた? あと誰から?」

そう俺が質問すると、香里は「やれやれ」と言った表情を浮かべる。
ナンダロウ。とても嫌な予感がするのは・・・。

「あら。まだ気付かないの?」
「・・・ああ」
「いい?」

と、香里は一旦言葉を切る。
アアダメダ。そこから先を聞いてはイケナイ気がする

「私は、今日の朝、自宅で、妹の栞から聞いたのよ」


――――――――――――うん。そんな事だろうとは解っていた・・・つもりでした。


「・・・・・・」
「あー、そうそう。栞を止めるなら急いだほうがいいわよ。あの子、新聞部の友達がいる
らしくて今日中に――――」

ダン、と俺は教室から駆け出した。
つまり、あれだ。今日中に局部的寒冷地型少女こと美坂栞嬢はその、新聞部の友達とやらを使って『噂の先輩。相沢祐一の熱愛発覚!?』とかそういう事をやらかすんだろう、いやそうに違いない
段取りから見て、もう新聞は出来ていると考えていい。別に大した物じゃなくてもいいなら藁半紙でも何でもいいからな

「でも、一体どこで・・・」

走っていた身体を急制動。頭を捻り、考える。

@新聞をばら撒きながら高速移動
否。栞の体力から考えてそれはあり得ない

A実は口からデマカセ
否、否否否否否否否!!!
それは絶対に無い。誓ってもいい。

B「ゆういち!!!!」
――――え、俺?

「ゆういち! 栞ちゃんと学生結婚するんだってね〜 おめでとー お祝いあげなきゃね」
「ちょっとまてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」

何だ何だ何だ何だ何だその話は!!

「おい、名雪! 何だその結婚って!!?」
「えー、ゆういちが栞ちゃんと結婚する」
「そうじゃねぇ!」
「ゆういち・・・。親御さん公認なのは分かるけど、嬉しいからって舞い上がっちゃだめだよ?」

ゆういち一人の身体じゃないんだからね?、名雪は付け足す。 

「俺は妊婦か!!!? しかも親公認どころか鉈で殺されそうに―――――違う!! お前その話どこで聞いた!」
「えーっと、あ「あせらず、ゆっくり、丁寧で、猪の如く急げ」

名雪の言葉を遮り、肩を掴む。

「うんと、今日寝坊したのはゆういちも分かるね?」
「ああ」

確かに、名雪は起きなかったな。水ぶっ掛ければよかった・・・夏だし

「それで始業式に遅刻したんだけど、校門前で変な紙をもらったんだよ」

これ、と名雪は制服のポケットから一枚の紙を取り出した。大きさはA4サイズと言ったところか
俺はその紙を手に取り、中に書かれている文章を見た




『噂の先輩 相沢祐一さんと一年生のSさんが熱愛中!? 学生結婚か!?』


 

ビリ

とりあえず破った。

「あ」

名雪が声を上げ、非難の視線でコチラを見るが無問題。

「・・・せっかくの初回限定なのに」
「惜しむポイントはそこかよ!!? と言うか、たかが藁半紙の新聞に何故初回限定が?」

いや、今はこんな些事に構っている暇など無い。一刻も早く栞の奴を止めなければ・・・
でないと、俺が死ぬ。
所謂、恥ずかしさで。
いや、だってあれですよ?  栞ですよ?  年下ですよ?  ちっちゃいですよ?
端から見たら俺は炉利? とか、もの凄い称号――烙印も可――を天より受け賜りますよ?

と、脳内会議をしている間に足は動いていたらしく、すでに目の前は生徒玄関であった。
ギロリ、と瞳を鋭くさせて、生徒玄関の向こう―――校門を見つめる。
そこは、非常に嫌な雰囲気を醸し出していた。なんかこう、黄色い奴かピンクっぽいの小走りで駆け寄りつつ

「あー。どいてどいて」

頭を掻き毟りながら、あくまで関係ないですよ的雰囲気を出しながら俺は人だかりに声を投げかけた。
すると、どうだろう。人だかりは、俺が来るのを予期していたかのようにザザッ、と左右に十戒の如く割れたのだ。
打ち合わせとかリハーサルでもしてたのか? 
心中でツッコミを入れる。と言うかこんな時でもツッコミを忘れない自分は大物なのか困るような、ならんような

「あ、祐一さんじゃないですか」

と、その集団の奥には我が宿敵のミスバニラが居た。なんか瞳の色がご主人を見つけた子犬チックなのはどうだろうか?
ともかく、俺は栞目掛けて足を進めたのだった。




     ◇  ◆  ◇




「・・・。そういや、そんなこともあったなぁ」

つい先ほどまで捲っていた本――所謂、日記帳――を見ながら相沢祐一は、そう小さく呟いた。
既に時間は十二時を回り、日付は明日になっていた。どうやら、昔の日記を読むの夢中になっていたらしい。

「確か、そこから大変だったような気がするな・・・」

顔を若干蒼白させ、相沢祐一は昔の自分に対し――届くかどうかは定かではないが――エールを送る。がんばれ、俺。

「まだ、起きていたんですか祐一さん」

すると、後ろの寝台から一人の女性が眠気眼を擦りながら半身を起こした。

「ああ、ちょっと日記を見てたら昔の事とか思い出してね」

相沢祐一の問いに、女性はふふ、と口元を押さえ柔らかに笑うと

「明日もお仕事なんですから早めに寝てくださいね」

と呟き、再び眠りについた。


「・・・。さて、今日はもう寝るとしますか」


本を閉じ、引き出しに仕舞う。スタンドのライトを消すと、室内は急に暗くなった。
ふぅ、と息を漏らしながら、相沢祐一は後ろの寝台へと入る。

(確かに、あれは大変だった・・・)

と、思考したのが最後。彼の意識は一気に眠りの世界に落ちていった。





つづく・・・?






後書き

と、言うわけで。バニラ味の新作をお届けです。なんかもう久しぶりの作品なわけですが・・・一年ぶり?
まぁ、今度からはあまり間隔を空けずに仕上げたいなぁと思います。思うだけなら罪じゃナイデスヨネ?(ぇ

ちなみに、『所謂、恥ずかしさで』以降云々はあくまで祐一君の思考状態ですので
私の思考とは全く関係ないです、と言ってみたり。   
加えて、最後のシーンに出てきた女性――まぁ、恐らくバレバレだと思いますが――を秋子さんや佐祐理さんに置き換えてみると
なんだか、違う作品になりそうです。

最後に、拙い文章ですが読んでくださった皆様に感謝を

それではまた次回で


2005/8/11  アーティ